2000年代の出崎アニメ


板垣さんのWEBアニメスタイル
「1990年代の出崎アニメ」
http://www.style.fm/as/05_column/itagaki/itagaki215.shtml
から影響を受けて、ちょっと2000年代の出崎アニメに書こうと思う。


出崎統という監督の全盛期はいつか。
それは多分、決着のつかない議題だろう。


1970代
あしたのジョーで鮮烈な監督デビュー
そして、その「あしたのジョー」のイメージとは違った作品
ジャングル黒べえ」「エースをねらえ」で
その多様性を見せ、ガンバ・家なき子・宝島へ
1980年代
あしたのジョー2」の圧倒的なビジュアル
そしてコブラ・ゴルゴのアダルト路線
さらに40を過ぎて合作を通して海外へ。
1990年代は板垣さんのコラムに譲ろう



どの年代も輝かしい。
だが、俺はその時代を生きていない。
70年代の総括は70年代を生きた人が
80年代は80年代を生きた人がするべきだ。


俺の2000年代の出崎アニメもそれらにまったく劣っていない
いや、勝っているとすら、俺は思う。


2000年代の出崎はOVAブラックジャックの9巻から始まる。
1999年に度重なる苦難を乗り越えて、白鯨伝説を完結。
滞り気味だったOVAブラックジャックにその力の全力が注がれる。


9巻の人面瘡は出崎監督にしては非常に原作に忠実で
忠実にも関わらず手塚治虫よりも一歩踏み込んでいるのが印象的な作品だ。


その一歩とは「精神病」というものへの一歩の踏み込み。
原作が、悪の正気と善の人面瘡というセンセーショナルなラストだったのに対して、
出崎監督は、その相互関係を重んじている。
つまり、人面瘡はたしかに「良心」であるかもしれない。
が、それと同時に、その「良心」を植え付けるための
厳しい躾が、精神の崩壊を招いたのかもしれない、と。
良心とは、悪とは。
そして、BJ先生の精神病に対する無力感を表すようなラストも良い。


続く「しずむ女」は原作改変が見事な名作中の名作
「劇場版AIR」との繋がりは各所で語られているが、
これも原作との比較が面白いお話。


原作の「しずむ女」は典型的な公害モノ
「因果関係を証明できない」と
非を認めない役人、そして企業。
その巨悪と戦うBJ先生。
そんな話。


しかし出崎版「しずむ女」には悪はない。
企業も国もその過ちを認め、
賠償に動こうというしている、
背景設定を大胆に改変。
手塚治虫に対して真っ向勝負だ。


原作が、人の醜さを描いたとすれば、
出崎は人の美しさと、過ちの取り返しのつかなさを表現した。
あれだけの良い人が全力で応援したにも関わらず、
それでも救えない。
人の過ちはそれでも取り返すことはできない。
これは、たった今、2011年5月も同様であろうという意味でも、
興味深い。


そんな長い手塚治虫との対決を終え、
次に迎えるは、
何と「とっとこハム太郎


こんな芸当ができるアニメ監督が出崎統をおいて他にいるわけがない。


古巣の東京ムービーとはいえ、唐突も唐突
70年代以来とも言っていいコミカルな子供向け
しかもハム太郎ときたもんだ。


「作品との出会いは一期一会」という出崎監督らしい。


そして、内容がこれまた出崎節爆発!
70年代に出崎が描いた魅力的な「少年」がハム太郎に宿る。
テーマは恋。
いきなり革新にせまる。
人の言葉を理解はするが伝えられない少年ハムスターの葛藤。
涙の「ハム太郎とっとこうた」。
別れと出会い。
子供と大人。
短いながらに、出崎演出の粋が込められている。


続く第2作目、「幻のプリンセス」も見事な作品。
この作品も出崎節爆発だが、
なんといっても藤森雅也さんを筆頭に、柳田・関根両氏と
亜細亜堂の主力がドドンと参加している点が見逃せない!


出崎監督と亜細亜堂と言えば、
かつてのガンバでの出崎・芝山コンビの圧倒的な仕事。
その芝山努さんの弟子筋、その中でもトップクラスの面々が、
再び「ネズミ(ハムスターだけど)」アニメで
共演するとあっては、オタク魂が震えてまくりだ


そして画面を見て圧倒されるそのレイアウトのセンス。
Aプロから離れ、小林七郎と別れ、
ソリッドにより鋭くなっていった出崎コンテを、
再び、亜細亜堂のレイアウトが再構築する。


出崎のコンテに良いレイアウトが不要なんて幻想だ、幻想。
出崎コンテにはしっかりこれだけのものが詰まっていたんだ。
もちろん、杉野昭夫さんの出崎コンテに対する理解はずば抜けている。
だが、それだけはないのだ。
出崎コンテにはレイアウト的な旨味もギッシリと詰まっている。
それをかつての芝山努さんと同様に、
いや、それ以上に引き出したレイアウトは
2000年代に起きた奇跡と言っていいだろう。
ハム太郎」はそのために生まれたとすら思う。


思ったより長くなり過ぎてしまったので、ここで一旦終了