今期の2強・「てーきゅう」と「神様はじめました」〜四十を前に本気を出す


今期の俺的2強は「てーきゅう」と「神様はじめました」だ。


「テンポ」という言葉は一種のマジックワードになっているし、
はっきりといおう。


この2作品は
「速さが段違い」だ。


しかし、もちろんこの2作品で状況は異なる。


てーきゅう」はまさに最速への挑戦を行っているアニメだ。
もっとも速いアニメを目指している。
いまだに
「ていねい」だとか
「ゆるさ」だとかにこだわっている作品が多い中で、だ。


今期で面白いのはアニメの「速さ」というものを加速させた人間が同じく監督をやっているということだ。


ここで劇場版ナデシコのパンフレットから佐藤竜雄監督のインタビューを抜粋しておこう

―― (前略)どんな感じの映画にしようと思ってらっしゃるんですか?
佐藤 そうですねえ、「テンポ」と「引っかかり」という感じでしょうか。
―― どういう意味ですか?
佐藤 テンポよく流れていくけれども、そのわりには、頭には割りと残っていって、
   それが伏線になっているといいなあ、と思ってるんです。
   ほら、最近、テンポで見せていくアニメが多いじゃないですか。
   まあ、それをやり始めたのは僕や大地(丙太郎)さんなんですけど
   このごろは、テンポが速ければいいやというので、いたずらに速くして、
   その分、作品の密度が流動的になっていく作品がポツポツ出てきたような
   気がするんです。それは違うだろうと。


「いたずらに速く」しても意味はないことを気づかせてくれる怪作の一つが、
大地監督のOVA作品「妖精姫レーン」だろう。
ああ、意味は無いということはないか。
この作品を「ディスコミュニケーション」の物語と捉えれば、
キャラクター同士がまったく互いの話を聞かないことと同様に、
キャラクターが言っていることも何が起こっているかも視聴者に伝わらない、
そういう表現かもしれない。


この時の大地監督が四十手前の39歳。


対して「てーきゅう」の板垣監督も奇しくも四十手前の38歳。
アニメ監督として「速さに挑戦」するには良い頃合と言える。


ただ、先の佐藤竜雄監督のインタビューではその後のアニメの変遷を読みきれてない部分もある。


佐藤監督は「いたずらに速くしたがゆえに密度が流動的になる」と言っている。
この状況に対して真っ向からぶつかったのが
佐藤監督の「学園戦記ムリョウ」であり
高橋ナオヒト監督の「To Heart」であろう。


これらを布石として、00年代後半以降、
「遅いアニメこそ密度が高いアニメである」というような風潮となる。
しかし、これは正解ではなく、この結果
「遅い上に密度の低いアニメ」が世にはびこることとなる。


てーきゅう」はこれに対する一つのアンチテーゼだ。
出崎統マニアの板垣監督が「出崎的時間圧縮」も視野にいれつつ、
「速くてかつ密度の高い」アニメを作ろうというのだ。
アニメスタイルで「動画へのこだわり」を見せて、
動画枚数が多いだけの高予算アニメを腐していたのも、
「今のアニメ」への不満の表れだろう。


それに対して、大地監督の「神様はじめました」はまた別に心意気を感じる。
それは大地監督が今まで爆発させていた「世に対する不満や説教欲」が一巡したという感覚だ。


大地監督はギャグの名手であると同時に説教大好きおじさんでもある。
その説教の極みがこれまたOVA作品「まかせてイルか!」であろうが、
とりあえずその話はおいておこう。


もちろんこの「神様はじめました」も
同じチャチャ三羽烏桜井弘明監督の「会長はメイド様」あたりと比べてしまうと
やや説教くさく感じるものも、
かなりマイルドになってきたように思う。


かつての大地監督なら、学校での「いじめ」のシーンをもっと辛らつに描くであろうし、
「貧乏」というものへもっとフォーカスしただろう。
しかし、「神様はじめました」ではそこを乗り越えて
「世の中に対する不満もあるけど、それを許容することも重要だな」という心意気を感じる。
神というより仏という感じ?


今まさに不満を爆発させて創作力としている板垣監督と
不満が一巡し懐の深さを感じさせるようになった大地監督。


このコントラストが心地良い。