エンジェルビーツの特異性


エンジェルビーツは特異なアニメだと見るたびに思う。
アニメ史の一つの特異点


まず、一番メインの部分だけ見ても、その特異性は図抜けている。


PAワークス麻枝准岸誠二


PAワークスはいかにも00年代のアニメスタジオらしく、
自分の身内だけでアニメを作ることで、
質・思想ともにブレのない作品を作ることを身上にしてきた会社だ。

古巣のIG・ビィートレインそして繋がりの深いボンズグロスを経て、
トゥルーティアーズカナーンの元請けへ。


西村純二押井守の盟友だし、安藤真裕と堀川社長は旧知の仲だ。
IG・ビィートレインそしてボンズのコネを使った2作品。
コンテマンは真下ファミリーの川面・山本、付き合いの長い岡村天斎
そして脚本はブレイク寸前だった岡田麿里



ボンズ京アニユーフォーテーブルなどもそうだが、
身内だけで作ることで、作品のブレを少なくし、平均点をあげる。
それが00年代的な良質アニメの作り方であり、
それを先駆けていたのが、
まさに堀川社長の古巣であったIGそしてビィートレインであったといえる。


この集団に対して、まずシリーズ構成があの麻枝准
この違和感は半端ない。
違和感はすなわち、麻枝准とIG・ビィートレイン・ボンズが繋がらないのと同じことだ。
"箱庭感"などというものを叙情的に描こうとするなど、
ナンセンスだと考える世界観こそが、
PAワークスの背景にはある。
それはAIRとかKANONだとかと、攻殻ノワールカウボーイビバップを比べれば一目瞭然。
箱庭感など、草薙素子に鼻で笑われるのが関の山だ。


岡田麿里は実は事前にエンジェルビーツ的な作品を作っていて、
それが「レッドガーデン」および「デッドガールズ」。
デッドガールズモンスターとの語呂合わせ+メインが沢城というのを抜きにしても、
この比較も面白い。
岡田麿里の描く女たちは、何百年も何千年でも世界に残り続ける。
恋をしようと何をしようと満たされない。
それで「その化粧、120年は古いよ」とか言ってるの。
岡田麿里構成のエンジェルビーツなら、
新谷良子の参加もワンチャンあったかも。


同じゲームという括りでPAを見ても異質。
だって「レイトン教授VSクラナド」とかにならんでしょ?
そういう意味では、カナーンという選択肢は同じゲーム関係の原作でも
PAワークスと親和性の高いところをもってきたといえる。


それだけでも違和感なのに、ここに岸誠二だ。
亜細亜堂出身ながら、ゲーム業界に一度行って帰ってきた”逆輸入組”。
出世作の"瀬戸の花嫁"まではゲーム業界とアニメ業界をつなぐ仕事が多い。


そういう意味ではある意味、PAワークスという"ザ・アニメ業界"と麻枝准というゲーム業界をつなぐ仕事に向いてそうな気もするが、
作風がまったく別物。
「ギャグもシリアスも出来る人材」などと当時説明されていた気もするが、
モノは言い様。
岸監督の代表作に「勇牛パキスタン編」を持ち出しても仕方あるまいに。


これだけの要素であれば、互いに良さを消しあうことに考えられるのに、
そうはならなかった。


なぜなら、さらに訳分からない要素が各話コンテという形で舞い込んでいるからだ。
2話から板垣伸の友人にして、バスカッシュ助監督(途中降板)の平井義通だ。
元々はアゼータでプロデューサーをやっていたが、
板垣監督のブラックキャットで演出デビュー。
独特のキャリアを積んだ後、
バスカッシュを途中降板した、まさにその直後の参戦。


これが面白い。
元プロデューサーとして人脈もあり、演出のキャリアも独特。
しかも直前のキャリアはバスカッシュの"降板"だ。
捨てる神あれば拾う神あり。


PAとも麻枝とも岸とも違った背景をもった平井の色が作品になだれ込む。
直前までともにバスカッシュをやっていた橋本裕之はその筆頭だ。
中田軍団の一人として、谷口悟郎作品の常連だった人間が、
谷口イズムを持ち込んでくる。


さらに、アゼータ時代に平井がプロデューサーとして関わった作品の監督だった
政木伸一が参戦。
伝説のアニメスタジオ・カナメプロダクション魂ともいえるものが
垣間見えるようなコンテだった。


湖山禎崇も平井さんのルートなのだろうか?
政木さんとはよく組むこともあるのでそのつながり?
はたまた岸監督との古い縁か?
よく分からないが、彼の監督作品やAB直後の作品である「ミルキィホームズ」を見れば
まったく別方向からの殴りこみであることが分かるだろう。


そういう意味で、ユイというキャラクターはラッキーなキャラであったのだろう。
キャラの基本は麻枝准というよりは岸誠二作品の「エンジェる〜ん」や「瀬戸の花嫁
を思わせるし、
それをスタジオコメット風味にゴチャゴチャと動かすコンテワークは見事。
ユイがマイメロジュエルペット、あるいはミルキィホームズなんかに出てきてもおかしくないようなキャラに仕上がったのはまさにコンテあってこそ。


しかし、このバスカッシュな連中だけが牛耳っていたわけではない。
岸監督が同時進行でやっていたサンレッドの連中も勿論参戦している。
何度も話題にしている椅子の飛ばし屋こと浅井義之に、
サンレッド2期監督の松本剛彦はイメージボードと作監だ。


おそらく、松本剛彦の7話の作監パートは釣りの部分じゃないかと踏んでいる。
「釣り好きの斉藤」とか完全にサンレッド脳で作られている。
こんな人がサンレッドと同時、この作品のイメージボードやってたって、
すげぇ話だ。
SSS=フロシャイムという冗談のような解釈もバカには出来ない。


ここまででも山盛りだがまだ終わらない。
2010年のアニメの縮図たるのに必要なものとして欠かせないもの。
そう、GAINAXだ。
その中でも平松禎史と小倉陳利という人選が渋い。
ともに、オールドGAINAXの最後の作品とも言われるエヴァンゲリオンの参加者であり、
かつ、ニューGAINAXの幕開けとも言える「彼氏彼女の事情」および「フリクリ」に
で大きな仕事をしている。
両者とも画面の作りは他のコンテマンの回とは一線を画す。
一目見た瞬間に感覚的にGAINAXだと認識するような仕上がり。


そして。声優に「エヴァ声優」をキャラもほぼそのまんまに使っちゃうという荒業。
パロじゃないのに、ほぼパロじゃねーか、
しかもコンテ(平松さんはさらに作監)もエヴァスタッフだというこの本気さ。
本当のエヴァの"焼き直し"は新劇ではなく、ここにある。


いや、ある意味ではヱヴァQはまさしく「エンジェルビーツの平松・小倉回」と
連結できる内容だったのだから、勝るとも劣らないとはこのことか。
でもエヴァQにはそれ以外の要素が、なかったんだよなぁ。


そして、あおきえい
やっとあおきえいまで来たけど、もう疲れたな。
というか普通のアニメであれば、あおきえいスペシャルなことを書いて終わりなのに、
どんだけいろんなもんが入っているんだよ、このアニメ。
しかも、PAワークス勢の話もしてねーし。