アニメーター見本市メモ 隠れた名短編・ヤマデロイド
アニメーター見本市第一期が5/31も公開終了になるということで
一通り全部見た。
感想としては「オールドガイナックスぽさ」と「アートアニメーションぽさ」
のどちらかあるいは両方が見られる作品が非常に多い。
第一期分を連続して見ていくと特にそう感じる。
その中で、ルーツや思想として全く別の匂いを感じたのが、
この「ヤマデロイド」
だ。
作品の感想については、他サイトでは
「ヤマデロイド」感想 - 幻想と現実の往来とシームレス
(http://itlifehack.jp/archives/7676)
おいっ! タイトルそういう意味かよ! 山ちゃん熱唱の「ヤマデロイド」公開
(http://royal2627.ldblog.jp/archives/43393032.html)
などがあり、作品の雰囲気はこれでわかるだろう。
この作品の特に素晴らしいところは二つある。
1、シリアスと笑いのバランス
アニメーター見本市は「自由な表現の場」ということを掲げているが、
やはり、注目度が高い場での「クリエーターの自由」はどこか似通ってくる。
特に顕著なのは「笑い」の欠如。
こういうビッグチャンスではシリアスなもの真面目なものが優先され、
「笑い」の要素は軽視されがち。
アニメーター見本市には、
今石さんの「セックス&〜」やコヤマさんの「おばけちゃん」のような
「笑えない」タイプのギャグ作品は少数ながらあるが、
この「ヤマデロイド」のようなビジュアルからして
「笑い」を含んでいる作品は他にはない。
その一方で、この「ヤマデロイド」はアニメーター見本市で
一番ストーリーがしっかりしている。
正確にいえば「ストーリーをやりきっている」。
起承転結・序破急といったものがきちんと短い中で、
セリフではなく"映像"で説明されている。
セリフは一言もないが、
その分、内容を伝えるための絵がきちんとあり、
「アニメ」というメディアの絵の力を存分と味わえるというのも
「アニメーター」見本市として、
まさにアニメーターの実力を見せつけたといえる。
2、マッドハウスの正統な後継
二つ目はそのストーリーや表現の中身。
本作の監督を務めた江本監督
はマッドハウスでメインに活躍してきたアニメーター。
この「ヤマデロイド」では
マッドハウスの「ロールモデル」と言われる
川尻善昭監督作品的な
ストーリーや表現が展開されている。
シグルイの最終話では川尻さんがコンテ、江本さんが作画監督として競演しており、
「ヤマデロイド」ではその影響も垣間見られる。
また、原画クレジットには川尻作品常連の名アニメーター・箕輪豊さんの名前があるのも
ポイントが高い。
川尻さんが「獣兵衛忍風帖」で示し、
しかし日本のアニメでは主流にならなかった一つの可能性が、
この「ヤマデロイド」には宿っている。
○今後の展開も期待したい
「見本」というからには、「本製品」があると考えるもの。
「楽園追放」で劇場作品に挑戦したグラフィニカが制作であるこの「ヤマデロイド」、
仕上げれば60分くらいの中編劇場作品として良いものができるのではないか、と
見ていて強く感じられた。
そもそもの企画は板野一郎さんにきたのを、
板野さんが忙しいので、30代の若手で、、、という流れになったという。
ここらへんは板野さんの「育成魂」が出たのではないか、と思う。
かつてのアニメスタイルのインタビューで板野さんは
板野 それを韓国のように、文化として国を挙げて保護してくれるといいんですけどね。
http://www.style.fm/as/01_talk/itano05.shtml
橋本(晋治)君とか大平(晋也)君とか、戸倉(紀元)君とか、
うつのみや(理)君とかにスポンサーがついて、彼らみたいな人がメインになったり、
監督ができたりするようになれば。日本も、目先の金とか利益ばっかり見て、
製作委員会ですったもんだしないで、もうちょっと……。
人が、もったいないですよねえ。
「この人に好き勝手な事をやらせたら、どんなものを見せてくれるんだろう!」という人がいっぱいいるのに。
ある意味、アニメーター見本市はこの板野さんの考えを実現するものであったであろう。
(実際にうつのみやさんは今回監督やってるし)
そんな中で、板野さんのところから、
「これを劇場作品にすればどんなものになるだろう!」という
パイロットフィルム的なものが出てきたのには
歴史的な意義を感じる。
そんなわけで、アニメーター見本市では
「ヤマデロイド」、おすすめです。