スタードライバーに関する考察〜ヘッドはイカ刺しサムの何が気に食わなかったのか


イカ刺しサムの物語が気に食わなかったがゆえにサカナちゃんを捨てたヘッド。
ここで、一度、イカ刺しサムの物語を振り返っておこう。
青文字はヘッドの発言



少年は恋をした。
そう、浜辺で出会った少女に少年は燃えるような恋をした
そこは…魚の惑星
少年は腕の良い漁師だった。名前は…サム
少年サムは出会った少女と二人
ボートに乗って眩い銀河の世界に旅立つことを夢見た
けれど、サムが恋したのはその少女だったのか…それとも銀河の世界だったのか


人生という冒険は続く


魚の惑星には銀河の世界へ行ける船が一隻だけあったの。
その船は王様が持っていた
王様の船か…良い船はタダでは手に入らない
でもある日のこと王様がお触書を出したの
イカ大王を倒して、その青い血を持ってきた者には
 何でも望みのものを与える」と


魚の惑星には、夜になると我が物顔で暴れまわるイカの大王が居たの
食っても美味くないんだろうなあ…
少年サムは銀河の世界に旅立つ船を手に入れるため
 イカ大王と戦う決意をした

人生という冒険は続く


チャンスを逃すな!少女はそう思ったの。
なんとしてもイカ大王を倒して銀河の世界に旅立てる船を貰うのだ
そこでサムは手にした銛でイカを突き刺す訓練を始めた。
イカ大王と戦うその日に備えて。えい!えい!えーい!!

いいねえ…。努力の無い勝利などつまらない
イカ刺しサムの名はほどなく国中に広まった
イカ刺しサム。カッコいいな
少女はそんなサムの帰りをいつも海辺の小屋で待っていた
あれ?二人はもう一緒に暮らしてるの?
当たり前じゃない!お盛んな年頃の少年少女よ?
魚の惑星は進んでるんだね
そして、二人は秘密を持った…
それで…イカ刺しサムと少女はどんな秘密をもったんだい?
イカを食べたの。魚の惑星ではイカは悪魔の使い。
決して口にしてはいけないのに、二人は、二人でイカを食べた
イカ刺しサムっていうくらいだから刺身で食べたのかなぁ
けれど、秘密を共有したことで二人の絆は一層深まった


「人生という冒険は続く」


『欲しいものがあるならためらうな!』 少女はそう言ったの
ついに、イカ大王の居場所が分かったけれど
そこは一年中、激しい嵐による危険な大時化に囲まれた海だから
流石のイカ刺し様もその船出をためらった
けれど、ためらうサムを少女は叱った
そうとも。本当に欲しいものがあるならリスクを恐れちゃいけない。その少女、良い事言うねえ
イカ刺しサムは少女を海辺の小屋に残し、一人危険な海へと漕ぎ出した


人生という冒険は続く


戦いが始まる。危険で暗い夜の海。サムは銛を手に今戦いを挑む
そして言葉では到底語り尽せない激しい格闘の末に
イカ大王をしとめたサムは、ついにその青い血を手に入れた
なんだ…戦闘シーンの描写は無しか
瓶に詰めたイカ大王の血は、青く煌々と輝き夜の海を照らし出す
それは神秘的だねえ
その青い血を携えてサムは王様に謁見する
『王様、約束の青い血です!これがそうです!』
 王様は歓喜に震え瓶を受け取ると、いきなりその青い血を飲み干した
その青い血は、不老不死の魔法にかけられた王様が
永遠の人生を終わらせることが出来る唯一の薬だったのだ
『ありがとうサム。これで今宵眠りにつけば、私はもう二度と目覚めぬ』
…思いがけない展開だな


人生という冒険は続く


王様は王位を譲ると言った。
王様は最初から呪いを解く青い血を持ってきた者に
その王位を譲るつもりだったのだ
けれどサムは、その申し出を断った
『王様、僕はただあなたが持っているという銀河の船が欲しいだけなんです
『それに乗って、眩い銀河の世界に旅立ちたいのです』
『だから王位なんか要りません!国など欲しくはありません!』

本当…面白い
こうしてサカナちゃんの話が聞けるなら、俺もまだ頑張れる

…すると王様は言った
『よかろう若者よ。望むものは何でも与える約束だ。違えるつもりも無い』
『あの銀河の船を譲ろう』
『だが若者よ。イカ刺しサムよ。心して聞くがいい』
『あの船を動かすにはお前が恋する少女の赤い血を
 一滴残らず、そのエンジンに注がねばならぬ』
『そう、恋する少女を殺さねばならぬ』
『そうしなければ動かない』
『さあ持っていけ。たった今からお前のものだ』
甘いなこの飴…


「人生という冒険は続く」


サムは少女を殺した。
眩い銀河の世界に旅立つために、少女の赤い血をエンジンに注いだ
結局サムが恋したのは、少女ではなく銀河の世界への憧れだった
恋する少女は最初からあこがれの旅路を飾る花でしかなかったのだ
船はサムを乗せ銀河の世界へと旅立つ。
けれどもすぐにサムは気付いた。あれほど憧れた銀河の世界、
だが、それらの星星は生まれ育ったあの魚の惑星とどれほどの違いがあるのだろう
あの魚の惑星も同じ銀河の星の一つ、銀河は遠い世界ではなくサムは最初からその眩い世界に住んでいたのだ
 では何のためにサムは少女を殺したのか」


 それで終わりか
 物語は本当にそこで終わるのか
 お前の話はもういい




何が気に食わなかったのか。
このイカ刺しサムの物語は非常に出崎統的に見えるが、
完全にそうというわけではない。
おそらく、出崎統ならば少女を殺さないだろう。
サムは殺しても少女は殺さない。
(参考:まんが出崎昔ばなし『なんぱ船』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2596452
殺さずに置いていく、サカナの惑星に。
で、そうやって星々に女を作っていく。
それが出崎。


サカナちゃんの結末は富野由悠季の物語に近いかもしれない。
目的のために踏み台にしたはずの少女が
精霊(怨霊と同義)になって哀れなイカ刺しサムを翻弄する
そんな物語へと続きそうな感じ。


ヘッドが欲した物語は、どちらでもなく、
イカ刺しサムに少女と一緒に銀河の旅に出ていく物語だろう。
しかし、サカナちゃんはそういう物語にしなかった。
ヘッドには自分を犠牲にしてでも目的を果たしてほしかった。
ある意味ではその一点で、
サカナちゃんと出崎と富野は同じかもしれない。


「結局サムが恋したのは、少女ではなく銀河の世界への憧れだった
恋する少女は最初からあこがれの旅路を飾る花でしかなかったのだ」


「結局朋也が恋したのは、少女ではなく家族への憧れだった
恋する少女は最初からあこがれの船路を飾る渚でしかなかったのだ」


「結局シャアが恋したのは、少女ではなく母親への憧れだった
恋する少女は最初からあこがれの家路を飾る白鳥でしかなかったのだ」



さて、ヘッドはどうするのか。
タクトはどうなるのか。