ゆるめいつOVAとTVを比較する実験

今期新番「ゆるめいつ3でぃ」の1話がなかなか興味深い。
資料的・研究的な価値のある話数だった。


この「ゆるめいつ」にはすでに原作に割りと忠実なOVA版がある
TV版とOVAとは
○尺が同じ(3分、OPが15秒差)
○台詞がほぼ同じ
○声優が同じ
とほぼ同じ「内容」なのだが、
その視聴した印象はかなり違う。
ここに「演出」という大きな差があるからだ。


それが顕著に出ているのが、最後の台詞だろう
「無法者です」
という台詞の言い方はまったく正反対
OVA版が低い声でいかにも「この人たち迷惑だな」って感じで言っているのに対して
TV版は高い声のまま何かを悟ったような言い方に。
画面の方も
OVA

TV版

根本的に違った画面作りになっている。
「明るい/暗い」はもちろん、
ゆるめちゃんの立ち位置の「上手/下手」に注目してもいいだろう


この演出の違いは、放送形態の違いを受けていると考えるのが自然だろう。
OVAはこの後すぐに次の話数が始まり、連続で見ていく構成になっている。
また、漫画のおまけのOVAなので、基本的に視聴者はこの漫画のファンというわけだ。
なので
「ネガティブ」なカットで終わっても、視聴者は次を見てくれる。


それに対してTV版では、3分の「番組と番組の間を埋める」アニメであり、
ファン以外の人、あるいは前後の番組を見てつけっぱなしだった人も見ている。
また、すぐに次の話数を見ることが出来ない。
なので、
「ポジティブなカット」で終わることで、視聴者に「感じの良いアニメだな」と思わせる必要があるのだ。
その一方で上のTV版のカットをもう一度見れば
ゆるめが包丁をもっていて
「ネガティブな感情」も裏に潜ませていることが表現させている。


その意味ではOVA

にあたるカットをTVで入れてないのも、明示的だろう。


細かい演出志向の違いも見て取れる。
分かりやすいのは、ビー玉のシーン
OVA

TV


OVA版がゆるめちゃんの「瞬間的な感情」を表現しているのに対して
TV版では「じわじわと状況を理解していく様子」を表現している。


「ビー玉が何もしなくても転がっていく=部屋が傾いている」
という状況の理解への瞬発力の解釈の差と言っていいだろう。
これは「ゆるめちゃん」というキャラの認識能力だけでなく
視聴者の理解のスピード
想定しなければならない。
原作を読んでいるOVA視聴者ならば瞬間的に「ビー玉は部屋が傾いていることを表現している」とわかるが
初見の視聴者には少しの猶予が必要だ。


その猶予を稼ぐために、レンズ効果のある俯瞰レイアウト・用いることで
「画面の持ち」を良くしている。
逆に、OVAの方はここは「さらっと」いかないと、原作既読者には「クドイ」と思われてしまうところ。
横位置の単純なレイアウトでいっている。


さて、このOVA視聴者=原作既読者とTV視聴者=初見という
「視聴者の理解スピード」への配慮というのは
全編通して垣間見ることが出来る。
理解スピードの速い原作既読者向けではカットをどんどん割り、
TV版では逆にカットを極力長回ししている。


それが顕著なのがサエさんが来てから全員集合までの流れ
OVA版が





と5カットかけてるのに対して
TV版は


の2カット


OVA版は位置関係に多少混乱を招くカット割ではあるが、
それが逆に「原作を知っている視聴者」のテンポにはちょうどよく、
また、この混乱が「ゆるめちゃんの混乱」をも表現している。
それに対してTV版は
みんなが畳み上げとクミさんが来るのを同じカットでやることで、
「状況説明」を行い、
ゆるめちゃんの混乱っぷりをじっくりと見せるという演出をしている。



○先観せ、後観せ
渡部高志さんがかつて
先観せと後観せの使い分け」という話をしていたが、
この使い分けを見るのにも、このサンプルは有効だ。
それは「包丁のシーン」
OVAでは





こういうカット割で、
包帯を取る→サエ来る・びっくり→包丁が見える
という「後観せ」の方法をとっている。
TVは




こちらは先に「中に入っていたのが包丁」という情報を見せてしまう。
その後でサエが入ってくる。




とこんな感じで、たかが3分といえど、演出の比較研究資料としては十分なボリューム。
というかこれでもまだアパート前の話もしてないし、「音」の部分も違いもしていないなぁ。
「同時再生」しても面白いし、
ほんと、演出を考えるという意味で最高の素材だわ。