続・逆らわないバッティングの重要性〜アウトブレイクカンパニー・及川啓監督〜


仕事も含めて色々と大変だった2010年夏に、
俺を癒してくれたのは、
祝福のカンパネラ」だった。


その中でも、特に気に入っていたのが5話と8話で
どちらも、及川さんのコンテ回だった。


その中で、5話について書いたのが
「逆らわないバッティングの重要性〜祝福のカンパネラ
http://d.hatena.ne.jp/mattune/20100807/1281185288

5話がまず良かった。
画面が、退屈になる瞬間が皆無なんだ。


例えば場面の繋ぎ
食卓⇒部屋(買い物の依頼)⇒商店街
と繋いで、
何もない「移動」は一切排除

10月13日の記事のコメント欄で
「どんだけ退屈してるかよくわかる」
と言われるように、
退屈してるの駄目なんだよね。


だから、アニメを見ていて「俺、今、画面から興味途切れたな」
という瞬間がないというのが、
私にとってのアニメの良し悪しの重要な基準。


どうしたら興味が途切れないか、というのは
話の面白さであったり、キャラの可愛さであったり、作画の面白さであってり
背景の綺麗さであったりする。


カンパネラを見たときには、その要因として
興味の途切れない演出と構成」というものを強く感じた。


演出としては色々な技術が使われてるのだろうが、
特に気になるのが二つある。


(1)省略
これについては上記のカンパネラやラブライブの時にも話題にあげているが、
アウトブレイクカンパニーはさらに徹底しているように感じる。


例えば、2話の


この繋ぎ。
主人公の慎一の起き上がる動作を見せた次のカットで
もうランプを持って、扉のところに来ている。
本来あるはずの
ベッドから降りる→ランプを取りにいく→扉まで移動する
という三段階の動作を省略しているのだ。
思い切りのよいカット割り。
これをダラダラとやられていたら、
きっと退屈屋の俺は、興味が途切れてしまっていただろう。


続くカットも


間の移動を省略しており、
「早くミュゼルを画面に映したい!」
という意思が伝わってくる。


また省略はこういうミクロの動作だけでなく、
その後の女王に漫画を読み聞かせるシーンでも



一対一の読み聞かせシーンをカットしてしまうのはおろか、
女王の帰宅時のシーンまで省略して、
馬車しか見せないという思い切りのよさ!


読み聞かせの描写自体はその前でやってるし、
朗読というのはあんまりアニメ的にも映えないところ。
延々と「かいじ」を女王に読み聞かせて、それが終わって、帰るときのやり取りをやって〜
などとまどろっこしいことはしない。
あと、ミュゼルもいなくなってるしというのも、あるのだろう。
これは女王が「ミュゼルばかりに構いおって!」と怒るのも無理はない。


この読み聞かせは省略というスタンスは及川さんがコンテをやっていない3話でも見られ、
作品を通しての「省略」を感じる。
各話単位でやっていたことを作品を通してやるというのは監督という立場の為せる技だ。



(2)マルチタスク
もう一つはカットのマルチタスク性。


一つのカットで一つの効果を生むのがシングルタスクだとしたら、
一つのカットで複数の効果を生むのがマルチタスクだ。


このマルチタスクの重要性は玉川達文さんが過去にブログで言及していたが、
同じ内容のことを、蟹ナイトでは中村亮介さんもいっていた。


これも、全体を通して行われているが、
例えば内閣府のおっさんが、政府の事情を説明するこのシーン


おっさんの政府の説明台詞は、
こういう設定のアニメではいわば必要悪とも言えるもの。
これを、もしずっと馬車の中のシーンで構成していたら、
飽きてしまう。


そこで、馬車の中でなく外のシーンを見せる。
街並みや「日本政府に与えられた土地の広さ」、
そして「自衛隊員の存在」というのを
絵で同時に説明してしまおう、という魂胆。


そして、このおっさんの「政府はハコモノは得意」という説明と
土地は結構ある」という描写は、
3話冒頭の「発電所建設」と「学校建設」への伏線でもある。


つまり、このシーンは
主人公への動機付け(政府はなにも出来ないよ)
世界観の説明
次の話数冒頭への伏線
と少なくとも3つの役割を果たしている、というわけだ。


それにしても、3話アバンでいきなり発電所と学校が出来てるのも
思い切った省略だなぁ。
でも、ここで3話の半パート使って「発電所と学校建設のために奔走する慎一」とか
やられたら、俺の興味が途切れる可能性大なのでありがたい。



ストーリーがそんなにすごいか、と割と地味だし、
キャラクターにしても、前期の大和ゆら程の入れ込むキャラもいないし、
作画も田中宏紀さんが来ているとはいえ、作画フィーバーの今期の中では地味。


それでも、
カンパネラの及川さんの回の良さ、
みたいなものが、全編に渡って出ていて、
地味なんだけど、変に派手にするのではなく、その地味に逆らわずに
退屈しないどころか引き込まれいくアニメに仕上げてきている
というのは、さすがは及川監督、といったところか。
末期症状の私には、こういうアニメはまさに生きていく糧なので、本当にありがたいですね。


メモ:省略だと、のんのんびよりの1話も結構やっていて、そういう「のんのんびよりの圧縮率の高さ」
   みたいなのも時間が出来たら書いておきたいなぁ